緻密な仕事
公開日 2018/07/14 更新日
針箱のご注文をいただきました。
当店のある北本市はおいしいトマトの産地として有名です。
野菜に産地があるのと同じように、実は家具にも産地があります。
針箱のような和風小物家具の産地として有名なのが静岡県で、こちらの針箱も静岡県産です。
和裁が趣味のお客様からのご依頼で「今使っているものが傷んでしまったが、出来れば全体の大きさや引出しの配置などが今使っているものと変わらないものが欲しい」とのことで、いろいろ探した結果、やっとご納得いただけるものが見つかりました。
現在お使いのものには持ち運び用の取っ手は付いていなくて、側板にほんの少し切り欠き部分があり、
そこに指を引っ掛けるようにして両手で運ぶタイプのものでしたが、
どうしてもそのようなタイプは見つからなくて、取っ手付きをご用意させていただきました。
その代わり、引出しの配置や大きさなどは、現在のものとほとんど変わりません。
材料は「黄肌(キハダ)」という木で、「欅(ケヤキ)」に似た美しい木目を持っています。
全面ともに一枚の材料から製作しますので、ご覧の通り引出しから引出しに掛けて、きれいに木目が続いているのがお分かりになりますでしょうか?
背面もきれいな一枚の板目です。
内部にはいろいろと細かい仕掛けがしてあって、和裁をやられる方には本当に至れり尽くせりの重宝な箱ですよね。
ちなみに塗装は漆になっています。
静岡県はプラモデル産業、楽器産業も有名ですが、このような小さな家具を緻密に作ることが出来るという伝統が、
プラモデルや楽器作りの基礎になっているのかも知れません。
ソーイングボックス(針箱)という品群も最近ではアイテム数が急激に少なくなってきて、
その少ない中で海外生産にシフトしている部分もあるので、国内産業としては縮小の一途であることは間違いないと思います。
「緻密な仕事」がお客様の手元に届く道筋の最後の役割として、引出しが滑らかに使えるようにロウを塗ってお届けしました。
どうか末永くご愛用くださいませ。
「小さな家具の緻密な仕事」が少ない場面でもいいのでこれからも人々に愛され、
そして技術が確実に受け継がれていくことを家具人の一人として願って止みません。
2018.7.14 インテリアコーディネーター(950487A) 小川登志洋